街を走ると、昔は必ずあった小さな整備工場が更地や住宅に変わっているのを見かけます。私自身20代の頃にガソリンスタンドで勤務し、3級整備士の資格も取得しましたが、当時はガソリンスタンドの「整備士」という仕事にどこか中途半端さを感じていました。ディーラーのように専門知識を深めるわけでもなく、車のオーナーのように「知らなくても済む」立場でもない。お客さんの要望に応えたくても知識や経験が足りず、歯がゆさを覚える場面が多かったです。

今朝の新聞から「整備士志願が20年で51%減」という報道を目にしました。実際の数字を追うと、2004年度の整備士試験申請者は約7万2千人でしたが、2024年度は約3万5千人に半減しています。全国で活動する整備士は約33万人前後とされる一方で、日本の自動車保有台数はおよそ8,300万台。単純計算すると、整備士一人あたり約250台をカバーしていることになります。
こうして数字で見ると「不足している」と言われても不思議ではありませんが、中長期的に見れば整備士不足はそこまで大問題ではないのでは、と私は考えています。団塊世代が車を大量に保有していた時代と比べれば、これからは保有台数そのものが減っていくでしょうし、EV化や自動運転の普及によって整備の在り方も変わっていくからです。
むしろ怖いのは、目先の需要に合わせて人を増やしてしまうことです。短期的な不足を補うために整備士を増やせば、将来の需要縮小期に余剰人員が雇用不安を抱えることになりかねません。整備士不足を声高に叫ぶよりも、15年、20年先を見据えて業界全体の構造をどう変えていくかを考える必要があるのではないでしょうか。
所得についても同じです。整備士の平均年収は約425万円と言われますが、仮に“800万円でもおかしくない”と思うほど命を預かる責任の重い仕事です。しかし現状では、整備士個人の努力だけで改善できるものではなく、自動車税制や業界全体の枠組みを含めて改革しなければ待遇の大幅な変化は望めないでしょう。
もうひとつ考えたいのは、「軽整備」の扱いです。タイヤ交換やオイル交換、バッテリー交換といった作業は、分解整備に含まれないため、資格がなくても実施は可能です。であればある程度の経験や軽めの講習を受けた人が、副業として地域で担える仕組みを作ってもいいのではないでしょうか。安全面の確保や保険加入を前提とすれば、整備士不足の穴を埋める現実的な方法になり得ます。宅配便の再配達を地域の副業者に任せるように、整備も「軽整備は地域の副業者、分解整備は専門整備士」という形で分業する時代が来てもおかしくないと思うのです。
さらに視野を広げれば、人的供給制約の昨今、この業界に限らずあらゆる分野で人員不足が課題になっています。そうした時代に人を集めるには、「よっぽどの魅力と、仕事を好きになれる要素、そして自ら動けるイニシアティブ」が揃わなければ難しいでしょう。整備士に限らず、どの仕事でも「ただ条件が良い」だけでは人は集まらないのだと思います。
街の小さな整備屋さんが高齢化で姿を消す中、「ちょっとした修理を気軽に頼める場所がなくなる」ことこそ生活に直結する問題です。整備士不足を心配するよりも、むしろこうした軽整備を地域で支えられる仕組みづくりに知恵を絞るべきではないでしょうか。
未来のクルマ社会に正解はありません。そして目先の不足に振り回されるのではなく、長期的な視点で「業界の仕組みをどう再編していくか」を考えることが求められているのだと、今回の新聞記載、過去のガソリンスタンド勤務を思い出し感じた事でした。
• 整備士数:約33万人(全国)
• 自動車保有台数:約8,300万台
• 1人あたりの担当台数:約250台