私が言いたいのはシンプルです。
「何でもいいから、一度は何かで一番になってみるといい」という話です。
これは誰かにマウントを取るとかの、そういうことではありません。
自分の「好きなこと」、夢中になれるもの、それが何であってもいいと思います。
規模も関係ありませんし、プロでも素人でも構いません。極端に言えば、噂レベルでもいいと思っています。
ただ、その中で一度でも“頭角を現す経験”をすること。それは人生の中で、ないよりはあったほうがいいと感じています。
それは過去の武勇伝として語るためのものではなく、自分という人間の基礎、土台のようなものになる感覚があるからです。
私はオートバイが好きで、いわゆる「走り屋」でした。今ではあまり聞かない言葉ですが、当時は腕自慢の世界があり、そこからサーキットへと入っていきました。
やがて公式のレースに出るようになり、完全にのめり込んでいきます。
ぶっちゃけ自分では、それなりに上手いと思っていました。しかし、いざレースに出場すると、自分と同じくらいのレベルの人間がいくらでもいる…。なかなかタイムも出ず、結果も出ない。
「そっかぁ、自分は特別ではないんだ」と痛感するところからのスタートでした。
そんな中で、地方選手権レベルではありますが、SP250というクラスで私は1回優勝することができました。
エントリーメンバーは、個人とショップワークス系。この優勝、実は運もありました。
関東選手権と日程が重なり、速いライダーたちはそちらへ流れていたのです。
個人で活動し、やる気はあるけれど知識や経験が足りない私が、かろうじて前に出て優勝することができました…1997年のことです。
もちろん、この1997年というのは、バブル崩壊の影響が地方にも広がり始めていた時期でもあります。それまでイケイケだったバイクレースの世界も、徐々に衰退していきました。エントリー台数は目に見えて減り、以前のような賑わいは少しずつ薄れていく。
そんな空気の中でのレースでした。
さらに、ちょうどこの年はガソリンの規格変更がありました。レースガスから市販のハイオクガソリンへと切り替わり、デトネーションやエンジントラブルのリスクが強く意識されるようになります。
各チームが「壊さないためのセッティング」を探る中で、個人でインターネットもない自分は、情報得る為には“本”からでしたからね(笑)。
そうした時代背景、レース環境、そして日程の重なり。いくつもの条件が重なった中で、私は優勝しました。
つまりは、あの1位は自分の実力だけではなく、時代と環境、タイミングが重なって生まれた結果だったのだと思います。
それでもこの日、この場所での1位は1位です。
勉強できないスポーツもダメ。そんなパッとしない人間がバイクで1位になれた。
当時の私のバイクは、決して恵まれた状態ではありませんでした。転倒もしていて、カウルはガムテープで補修。タイヤウォーマーすら持っていない(汗)。
整備も最低限で、今振り返れば「舐めているのか」と言われても仕方がないような参戦スタイルだったと思います。
エンジンの状態確認も、プラグを外してライトで覗く程度。シリンダーヘッドすら開けず(ダメでしょ)、ピストンの焼けを細かく確認するようなこともしていませんでした。
それでも15周のレースを走り切り優勝できた…!
内容はあまり鮮明には覚えていません。仲間がビデオを撮ってくれていたのですが、カメラ操作が分からず、まともに映っていないというオチまでついています。
何が言いたいのかというと、こうした経験は何物にも代えがたいということです。それは人に自慢するためのものではなく、自分の中で上書きされることのない“事実”として残るものです。
人生の中で一度でもトップに立つという経験は、その後の自分を支える力になります。
すぐに何かに繋がるわけではありませんし、直接お金になるわけでもありません。しかし、ふとした時に「自分は一度やったことがある」と思えることが、自分を保つための支えになるのではないかと感じています。
ですが私自身は、その経験をうまく次に繋げることはできませんでした。
「ただ優勝して終わり」にしてしまった部分もあります。本来であれば、そこから何を積み上げるかが大切だったのだと思います。
だからこそ、今あえて言いたいです。
何でもいいから、自分の好きなことでいいから、一度は一番を目指してみる。
その経験は、あとからじわじわと効いてくる“人生の基礎”になるんじゃないか?今、歳をとった私はそう思っています。

■SP250クラスとは何か1990年代に行われていた「SP250(スポーツプロダクション250)」というクラスは、市販されている250ccのバイクをベースに改造して走るレースカテゴリーです。
簡単に言えば、「誰でも買えるバイクを、どこまで速くできるか」を競うクラスでした。
ただし“市販車ベース”とはいえ、改造の自由度はかなり高く、エンジンや足回り、電装系など、各チームや個人が工夫を凝らしてマシンを仕上げていきます。
そのため、同じ車種でもまったく違う走りをするバイクが並ぶことも珍しくありませんでした。
使われる主な車両は、Honda NSR250Rなどの2ストロークエンジンのバイクです。
軽くてパワーがあり、扱いがシビアな反面、乗りこなせば非常に速いという特徴がありました。
このクラスの魅力は、ライダーの腕とマシン作り、その両方が結果に大きく影響するところにあります。
お金をかければ速くなるわけでもなく、逆にノーマルに近い状態でも、乗り手の技量次第で上位に食い込むことができる。
まさに「腕自慢の集まり」と言える世界でした。
プロを目指す若手ライダーから、仕事をしながら参戦するアマチュアまで、さまざまな人たちが同じコースで競い合う。
そんな“混ざり合ったリアルなレース”が、このSP250クラスの大きな特徴だったと思います。
AI調べ